映画DVD売れ行き好調?神戸芸工大特任教授・石井聰亙監督 初期6作品

 映画「狂い咲きサンダーロード」「鏡心」など先鋭的で、実験的な作品を撮り続けている石井聰亙監督。監督生活30周年となった昨年は初期6作品を収めたDVDボックスを発売するとともに、神戸芸術工科大学の特認教授にも就任。「激動で、節目の年」と話す昨年を振り返ってもらうとともに、今年の制作活動などについて聞いた。(島田耕)

??神戸芸術工科大学先端芸術学部の特任教授に就任した理由から

 「この学部は昨年4月に新設されたばかりで、新しいものを生み出す雰囲気にあふれ、(教授陣には)尊敬するクリエーターも多く、面白い試みだと思ったので受けました。担当する学生数があまり多くなく、実習中心に自分のカリキュラムが組めるのも理由のひとつです」

??授業の内容は

 「まずは何より基本が大切でしょう。多様性と時代のニーズもありますが、それと映画制作の大原則は両立できるはず。具体的には、短編映画を撮るということで、すべての基本を学べるように指導しています。学生をお客さまとは扱わず、プロの現場の助手的な感じで厳しく教えていますよ」

??学生の印象を

 「実際に撮らせても、うまいですね。ただ、映画をあまり見ていないというか…。見ていても、自宅のテレビでDVDを見ているケースが多く、発想がアニメ的です」

??ところで昨年10月には初期6作品を収録したDVDボックスが発売されました。

 「初期の作品はフィルムや音声の痛みが激しいため、要望があっても上映できる状態ではありませんでした。しかし、デジタル技術の進歩で良好な状態でのデータ化が実現。また、世の中でDVDボックスが認知されてきたこともあり、ファンに初期作品を届けるタイミングかなと思い、発売を決めました」

??監督自身、初期作品を改めて見て、どう感じましたか

 「自分にとっては“痛い”ですよね。無我夢中で人の迷惑や危険を顧みず、無謀な状態で撮影した作品ばかりですから。でも、これらの作品は自分1人の力でできたものではなく、当時無償で協力してくれた人たち全員の“宝物”で、良い状態で残すことは大事だという思いに至りました」

??初回出荷分がほぼ完売したようですね

 「これほど熱心なファンがいるとは正直驚いています。30年前に、まさか30年後に自分の作品がこのような形で残るとは思ってもいませんでした。このDVDボックスは自分にとって原点確認であるとともに、さらに頑張らなければ、ということを思いなおす、良い節目になりました」

??今年の活動について

 「複数の話が進んでおり、現実的に可能なものからしっかりと形にしていきたいですね。メジャーな作品も撮りたいし、初期作品からつながるような作品も撮りたいし…。海外での仕事が増えると思います」

??大学の授業もあり、またDVDボックスの第2弾の話もあるようですが。

 「DVDは第2弾まで発売するというのが当初目標で、(第1弾が)販売好調ということもあり、時期は未定ですが、第2弾も作れるということになりました。大学については今年から学生個々の能力を伸ばせるように、より実習中心にやっていくつもりです。2006年は激動の1年でしたが、今年もハードワークになりそうです」

??今後どのような作品を撮りたいのでしょうか

 「(私の作品は)同じ人間が撮っており、そこに共通項があるはずなのに、作品ごとにコアなファンが分かれます。自分の中では、これらすべてを統合した作品に向かっていることは確かですね。激しく、美しく、そして精神性の高い映画を作ることが私の願いです」


【プロフィル】石井聰亙

 いしい・そうご 日大芸術中退。入学直後に撮影した8ミリ映画デビュー作「高校大パニック」が熱狂的な支持を集め、その後も「狂い咲きサンダーロード」「逆噴射家族」などジャパニーズ・ニューウエーブの急先鋒(せんぽう)といわれる作品を発表。イタリアのサルソ映画祭、オスロ映画祭でグランプリを受賞するなど海外の評価も高い。映画以外にもミュージッククリップ、ビデオアートなどさまざまなメディアで活躍している。48歳。福岡県出身。

フジサンケイ ビジネスアイ - 2007年1月4日